作品NO.75 6000字
<2クール> の 名作>良作
ジャンル 異能バトル・アクション・人間ドラマ・眼鏡ヒロイン
人間ドラマよし!バトルよし!!
00年代屈指のハイクオリティエンタメ作品『R.O.D -THE TV-』は紙(神?)アニメである
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作品NO.75 『R.O.D -THE TV-』
<2クール> の 名作>良作
※指標:90(めちゃくちゃ良い)>75(良い)>50(2流)
世界観:80 脚本/構成:85 演出:90
キャラ:90 演技(声優):90
引き:80 劇伴:85 作画:90
Ave. 86.25
ネタバレ厳禁度:★★★☆☆
作品データ/スタッフ/キャスト
2003年
パーフェクト・チョイス、フジテレビ、TOKYO MX
全26話
オリジナル作品(原作:倉田英之)
監督:舛成孝二
脚本:倉田英之
キャラクター原案:羽音たらく
キャラクターデザイン・総作画監督:石浜真史
音楽:岩崎琢
アニメーション制作:J.C.STAFF
菫川ねねね:雪野五月
アニタ・キング:斎藤千和
マギー・ムイ:平田宏美
ミシェール ・チャン:菊地祥子
読子・リードマン:三浦理恵子
ナンシー・幕張:根谷美智子
ドレイク・アンダーソン:岩崎征実
ジュニア:斎賀みつき
ジョーカー:郷田ほづみ
『R.O.D -THE TV-』 とは
2001年から2002年にかけて発売されたOVA作品『R.O.D -READ OR DIE-』の正統なる続編として制作された作品。主人公をOVA版の読子・リードマンからアニタ・キング、マギー・ムイ、ミシェール・チャンの3姉妹と、読子と深い関りを持つ作家の菫川ねねねに移し、前作から5年後を舞台に物語は幕を上げる。
引用元:(C) スタジオオルフェ/アニプレックス
といった風に、一見、前作との繋がりの薄い唐突な始まりにも感じるのですが、物語の進行に合わせて徐々に繋がりが見えてくる構成は本作の妙味といえるものでしょう。なかなか登場しない前作主人公・読子(下図)に期待感が高まったり、前作からの馴染みの登場人物と本作からの新たなキャラがそれぞれ描かれる中で、敵味方の構図が掴み切れないような見せ方も非常に巧く、面白さの大きな要因です。
『R.O.D -READ OR DIE-』(以下、OVA版)の紹介記事でも触れましたが(短い記事ですので宜しかったら併せてご一読を)、先にOVA版を見ておくと『R.O.D -THE TV-』をより楽しめると考える一番の理由もここにあります。
引用元:(C) スタジオオルフェ/アニプレックス
OVA版ではバトルシーンの迫力や読子のキャラ造形が魅力的でしたが、『R.O.D -THE TV-』(以下、テレビ版)ではその辺がほぼそのまま引き継がれている上に、新たに加わったキャラの魅力や物語のスケール感、作画などのクオリティ面などでも大幅にパワーアップしています。通常、一般論として(?)OVAの方がテレビ放映用のものより作画などのクオリティが高いイメージがあるのですが、本作においてはテレビ版の方が上を行く印象がある……。
1話を見た時には、手描き作画とセルの優しく渋い質感、しんみり響く音響の良さ、など往年の名作OVAを思わせるような、それでいてエヴァの方向性でさらに進化させたような映像の質感や作画のクオリティの高さに正直度肝を抜かれるほどでした。
J.C.STAFFは個人的に好きなアニメ制作会社なのですが(OVA版の制作会社はスタジオディーン)、00年代初頭にこういう方向性のハイクオリティアニメを手がけていたのは嬉しい驚きでもありました。
『R.O.D -THE TV-』 ここが良かった!
- キャラの魅力が支える人間ドラマと日常系的演出
- 本作のMVPキャラ?アニタ・キング役、斎藤千和の好演
- 泣けるほどの高みに到達した?バトルシーン
- 全てを支える要、石浜真史氏の琴線に触れる作画
キャラの魅力が支える人間ドラマと日常系的演出
OVA版がそうであったように、『R.O.D』というと、やはり迫力あるバトルシーンが売りの作品、というイメージが視聴前からも何故か頭に染み付いていたのですが、テレビ版ではバトルだけでなく人間ドラマも秀逸で、間を活かした芝居やロングショットを効果的に用いる落ち着いた演出など、ある種の日常系作品に通じる舌鼓を打つような風合いが随所に見られたところは意外な驚きでした(音響も秀逸です)。
1話こそ、さすが『R.O.D』!という、圧巻の作画によるバトルシーンで幕を開けますが、以降の話数では、バトルメイン回と日常回(ドタバタホームコメディ、学園ドラマ、友情、百合!?などなど)でバランスよく構成されていきます。
引用元:(C) スタジオオルフェ/アニプレックス
1クール目は、バトル回を主に三姉妹(上図)が裏稼業としてこなすミッションが受け持ち(スパイ風味など「チャーリーズ・エンジェル」っぽいかもしれませんね)、日常回ではねねねと三姉妹の関係性を深めるようなエピソードが積み重ねられいきますが、とにかく三姉妹にしてもねねねにしても皆キャラが立っている!のは本作の大きな魅力でしょう。
引用元:(C) スタジオオルフェ/アニプレックス
まあなんにしても、三姉妹が最初本当に腹立たしい(笑)、のですが、「憎さ余って可愛さ100倍」、その腹立たしさは物語の進行とともにキャラへの愛着へと見事に転化していくこと必至でしょう。
引用元:(C) スタジオオルフェ/アニプレックス
ねねね(上図)は、眼鏡キャラとして読子に負けず劣らずの芯のあるキャラとしてその穴を埋めるに十分魅力的です(雪野五月さんの好演も光ります)。
本作のMVPキャラ?アニタ・キング役、斎藤千和の好演
三姉妹もそれぞれ個性が際立っていて素晴らしいのですが、中でも、やはり三女アニタ(下図)は本作のMVPといってもよいくらい記憶に残る重要なキャラでしょう。様々な局面で複雑な過去を持った年頃の少女として生々しい感情を吐露する彼女の姿に何度涙腺を揺さぶられたことか……。演じられた斎藤千和さんにはありったけの称賛を送らせていただきたいと思います。
引用元:(C) スタジオオルフェ/アニプレックス
泣けるほどの高みに到達した?バトルシーン
泣けるほどの高みに到達したバトルシーン、ですが、これはここまでの話の延長として語れるものです。
バトルシーンの凄さ、あるいは良さについては、音楽も作画も前作の方向性やクオリティをそのまま踏襲しているといえるのですが(詳しくは前作の記事を参照のこと)、テレビ版がそこから更にもう一段飛躍できたのは、ここに「戦うべき理由」が加わったからであると筆者は考えている。
ワンクールを費やして、ねねねと三姉妹達の関係性、及びキャラの魅力を丁寧に描き膨らませた、からこそ、その理由に頭で理解するようなロジカルなものでなく肉を噛むように納得できる切実さがしっかりと宿る。ヒーローものなどでは時として、世界を救うために、といった大きな理由に傾きがちですが、何もそういう大きな正義や大義だけが切実足りえるわけではない、描き方如何によってはもっと身近で個人的な理由の方がより切実さが増す場合もあるのだ、ということを本作のワンクールの描きが教えてくれたようにも思います。
引用元:(C) スタジオオルフェ/アニプレックス
つまりは、OVA版からあった背筋にゾクリと来るようなカタルシスのあるバトルシーンにこうした切実さが加わったことで、泣けるほどの高みに到達した、ということになるわけです(まあ、筆者の涙腺は脆すぎるのもいいところなので多くの方にとって参考になるものとも思えませんが(笑)、個人的にはいくら涙腺が脆いといえど、さすがにバトルシーンで泣いた経験は滅多にない、ということでこの点を高く評価、強く推しています)。
この点ではやはりワンクール目のクライマックスとなる12話が頂点でしょうか(ちなみに日常回の頂点となる話数を挙げるとすれば、アニタ学校編のクライマックスともいえる11話あたりになるでしょうか)。
全てを支える要、石浜真史氏の琴線に触れる作画
バトルシーンの作画はもちろんですが、本作は日常シーンでもここまでやるか?というくらい尋常ではない作画の拘りが随所で感じられる。こういった場合、その高いクオリティが物語に還元されることなく無駄な拘りだと感じられる作品も中にはあるのですが、本作の場合はしっかり還元されている。
例えばアニタが家の中で寝そべって背中をボリボリ掻いてるシーンでも作画にやけに力が入っていて思わず画面を凝視してしまうのですが、ここでかけた手間は決して無駄ではない。このように手間暇かけた作画によってキャラに対して確かに抱くことになる実存感や生々しさ。それがしっかりキャラ達の魅力に還元され、更には先に述べた戦う理由の切実さにも繋がっていくのだと。
アニタが歩いて階段を上るだけの何でもないシーンでもやはり同様に目を見張るようなレベルの作画が見られるのですが、こういった何でもない日常動作の描きに見ていて涙が出てきそうになるような特別な力が宿っていたりもする。
引用元:(C) スタジオオルフェ/アニプレックス
個々のシーンやカットにおいて誰が原画を書いたのか、など諸々の功績について断定はできないわけですが、総作画監督としてクレジットされる名匠、石浜真史氏の存在が作品クオリティへの貢献度の点で非常に大きなものだったことは容易に想像がつくところではあります(氏が参加した諸作でも割と同じように感じた経験があるのですが、こういうのを「琴線に触れる作画」と勝手に呼んでます)。
総評
2クール目は、いよいよ最終局面に向け事件の核心に迫っていくのに伴い、キャラが各々の過去や宿命に対峙していくシリアスな場面も増えていきます。なるほどそういうことだったのか!とこれまでの疑問が解消されていく終盤あたりは怒涛の面白さと評してもよいものでしょう。
一方で、劇的展開などのストーリー性が強まったことの副作用とでもいうのか、ワンクール目で非常に充実感のあった日常回の面白さや味わいが鳴りを潜めたところは、致し方ないとはいえ多少残念に感じる部分ではありました。
1クール目の出来がすこぶる良かっただけに2クール目にはそれと同等以上のものをどうしても求めてしまう、というある意味で穿った見方も多分に含まれはするのですが、最後のオチや物語の締め方、読子(とねねねの関係性)の描きなどにおいて2クール目は少ししこりのような物足りなさが残った、というのが正直なところではあります(ここが満足いくものならば文句なしの【名作】と叫んでいたのですが……。ただ、読子とねねねの関係性については、原作の方ではより突っ込んだ描きがあるっぽいので、アニメで物足りないと感じた部分も幸福な余白として捉えることはできるのかなとも思います)。
それでも、総じて「00年代屈指のハイクオリティエンタメ作品」として大きな評価の出来る作品であることは揺らがないでしょう。
この作品、前作OVA版を含めて感じるのは、紙を操って戦う設定の勢い勝ちだよなということ。ともすれば、紙を操るってどういうこと?といった疑問や突っ込みも生じうる設定だと思うのですが、物語の開始から一貫してそういう風に感じることがなかったところは凄い。これは、脚本含めた倉田英之氏の世界の創造と見せ方に巧さがあるからだろうなと。
「ザ・ペーパー」
とは、「紙使い」の中でもトップクラスの強さを誇る読子のコードネーム。人々が畏敬の念にも近い感情を込めてそう呼ぶときに立ち現れる高揚感、これこそがそうした勢いであったり巧さ、作品の魅力、諸々を集約しているのではないかなと思います。
評価・採点
作品評価
名作>良作
傑作 絶対観た方がよい作品
名作 観るべき、マストではずせない作品
良作 観た方がよい(がマスト!とは言い辛いかもという)作品
佳作 時間があるなら是非観ることを勧めたい作品
水準作 普通だが見どころは(十分)ある作品
凡作 酷いが全否定ではない、どこか残念な作品
失敗作 ほぼ全否定、何とも残念な作品
傑作・名作 傑作と名作の中間(ただしカテゴリは名作とする)
傑作>名作 傑作寄り(同上)
傑作<名作 名作寄り(同上)
※惜作 名作になりえた惜しい作品
※超神回 ずば抜けて素晴らしい名作回がある作品
レーダーチャート評価
世界観:80 脚本/構成:85 演出:90
キャラ:90 演技(声優):90
引き:80 劇伴:85 作画:90
Ave. 86.25
100 唯一無二、これ以上はそうそう望めない最高峰
95 最高、傑作レベル、文句なし、その作品にとってなくてはならない
90 めちゃくちゃ良い、名作レベル
85
80 かなり良い、良作レベル
75 良い
70 なかなか良い、佳作レベル
65
60 普通、水準作レベル、少々物足りないが及第点は出せる
50 凡作レベル、2流
30 失敗作レベル、3流
ネタバレ厳禁度
★★★☆☆
少し注意。ネタバレによって面白さ・衝撃度が少し低減する可能性あり
関連商品
円盤
配信もよいですが、円盤で腰を据えてじっくり何度も視聴するならOVA版、TV版両方収録でその他特典も充実しているこちらのBDboxを買うのがよさそうです。
国内版なのでそれなりに値は張りますが、内容は間違いない作品なので財布に余裕があるならこれをポンと買ってしまっても損はないかと思います(ブルーレイ画質的にどこまで向上しているのか、レヴューを見渡すと少し不安はありますが、お金に余裕が出来たら私も是非買いたいところ……)。
原作
記事本文でも触れたように、アニメでは特に読子とねねねの関係性の描きにおいて若干物足りなさを感じたので、いつかそこを補完するためにも原作には手を出したいと思ってます。脚本でなく、倉田さんの小説というのも今まで一度も読んだことがないので興味ありますね。
サントラ
最初に出たTV版サントラがコピーガード仕様でファンには大変不評だったようなのですが、その後に出たこの2枚ではその辺の問題は解消されたようです。
フィギュア
本作でも特に魅力的だったアニタのフィギュアです(金とスペースに余裕があれば欲しい……)。
執筆者 : PIANONAIQ (@PIANONAIQ)
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