コラムNO.7 8000字
“遊び要素”とは?
いきなりですが、
アニメのOP・ED映像内の世界ってどこにあるのでしょうか(哲学)
曲は現実世界でアーティストさんが歌っているものを収録した「こっち側」のもの。キャラクターは当然二次元の「あっち側」のものです。
すると、例えばあるOP映像で曲に合わせて歌ったり踊ったりしているキャラクターを見て、「この子たちはどこでどうやって曲を認知しているのだろうか?」という疑問にぶつかる訳です。
これに関して仮説を立てるとすれば、
アニメのOP/ED映像内の世界は現実世界(曲)と作中世界(キャラクター)のちょうど中間くらいの位置にある
と言えるのではないでしょうか。
とはいえ、曲と作中世界はそれぞれまったく別の存在です。そんな時に曲と作中世界を繋げるものが“遊び要素”です。そして「良い」と思えるOP・ED映像ほどこの遊び要素をうまく使えているような気がします。
“遊び要素”というのは適当に命名したものですが、これは要するに「OP・ED映像の世界は作中と異なる世界」ってことを利用したOP・ED映像の演出に使われる特有の要素(手法)みたいな感じでしょうか。拡大解釈すれば本編の設定を使ったキャラクターのサービスシーンとも言えるかもしれません。
前置きが長くなりましたが、“遊び要素”には幾つか定番のようなものがあるので、具体例と一緒に見ていきましょう。
① お尻フリフリ
1:©さがら総・メディアファクトリー/「変猫。」製作委員会
3:©クール教信者・双葉社/ドラゴン生活向上委員会
2:©はりかも・芳文社/うらら迷路帖製作委員会
4:(C)水瀬葉月/アスキー・メディアワークス/C3製作委員会
これは特に説明するまでもなく、リズムに合わせてお尻をフリフリするやつです。スカートの場合だと見えるか見えないか…みたいなのもフェティッシュでいいですよね笑(チラリズムってやつ?)
② 掛け合い
1:©いみぎむる/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/この美製作委員会
2:©ねこうめ・一迅社/すのはら荘の管理人さん製作委員会
これも言葉通りで、掛け合い演出です。あんまり例が浮かばずこの2つだけなんですが、メジャーな手法だとは思うので探せばもっとあるような気がします。
③ 手拍子
1:©石塚千尋・講談社/「ふらいんぐうぃっち」製作委員会
3,4:©今井哲也/徳間書店・「アリスと蔵六」製作委員会
5,6:©椋木ななつ・一迅社/わたてん製作委員会
2:(C)鴨志田一/アスキー・メディアワークス/さくら荘製作委員会
この手法は桜美かつし監督関連作品でよく使われてるイメージです。実際に絵コンテ書いてる方とかは違うかもしれないですが、もしかしたら桜美監督は手拍子させるのが好きなのかもしれませんね。
④ 一言口ずさみ
1:©筒井大志/集英社・ぼくたちは勉強ができない製作委員会
3:横槍メンゴ/SQUARE ENIX・「クズの本懐」製作委員会
2:© 荒井チェリー/一迅社・未確認で進行形製作委員会
4:©涼川りん・白泉社/「あそびあそばせ」製作委員会
1フレーズだけ口を合わせるやつです。セリフっぽい歌詞の部分に合わせてくるのが特徴です。ぼく勉の場合はメガネに息を吹きかける「はー」という音と歌詞の「ハート」を合わせているのがおしゃれです。
⑤ 歌う
「ふ~わ~りかろ~やかに~」♬
「NEW GAME!」より
©得能正太郎・芳文社/NEW GAME!製作委員会
「もっともっおと→わたっしたち→ちっかづいてる」♬
「スロウスタート」より
©篤見唯子・芳文社/スロウスタート製作委員会
「よけいなことかな~」♬
「すのはら荘の管理人さん」より
©ねこうめ・一迅社/すのはら荘の管理人さん製作委員会
「Yes 囁いてあげるから~」♬
「ゴールデンタイム」より
©竹宮ゆゆこ/アスキー・メディアワークス/おまけん
多くの場合は可愛い動きをつけながら歌っていて、これぞまさにサービスシーンといった感じです。
⑥ タイミング
何回も → 何回も
「冴えない彼女の育てかた」より
©2015丸戸史明・深崎暮人・KADOKAWA富士見書房/冴えない製作委員会
これは歌に対してキャラの動作のタイミングを合わせる演出ですね。歌に限らず楽器演奏にタイミングを合わせて、なんてのも多く見かけられると思います。
はー → なー → さ → ない!
「推しが武道館いってくれたら死ぬ」より
©平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会
「さ」の部分で溜めてるのいいですよね。個人的に好きなポイントです(笑)
⑦ 踊る
「未確認で進行形」より:© 荒井チェリー/一迅社・未確認で進行形製作委員会
「変態王子と笑わない猫。」より:©さがら総・メディアファクトリー/「変猫。」製作委員会
「私に天使が舞い降りた!」より:©椋木ななつ・一迅社/わたてん製作委員会
よくありそうで、実はあんまりないダンス演出です。女児アニメとかアイドルが題材の作品だと当たり前のように踊っていますが、それ以外の深夜アニメだと珍しい気がします。作画的に重そうですからね…
踊ると言っても軽く動く程度のものから、アイドル並みに激しく動かすものもあるのでピンからキリではあります。
⑧ クレジット
「サーバント×サービス」より:©高津カリノ/スクウェアエニックス・サーバント×サービス製作委員会
「ヤマノススメ セカンドシーズン」より:(c) しろ/アース・スター エンタ―テイメント/『ヤマノススメ サードシーズン』製作委員会
「ぼくたちは勉強ができない!」より:©筒井大志/集英社・ぼくたちは勉強ができない製作委員会
これはスタッフクレジットで遊び心を見せてくるやつです。その作品の題材に合った小物がたくさん登場するのが面白いところです。
⑨ メリーゴーランド
「ひとりぼっちの○○生活」より:©2018 カツヲ/KADOKAWA/ひとりぼっちの製作委員会
「甘々と稲妻」より:(c)雨隠ギド・講談社/「 甘々と稲妻」製作委員会
「恋は雨上がりのように」より:© 眉月じゅん・小学館/アニメ「恋雨」製作委員会
「ぼくたちは勉強ができない!」より:©筒井大志/集英社・ぼくたちは勉強ができない製作委員会
メリーゴーランド……すいません適切なネーミングが思いつきませんでした。動物やマスコット的な何か、場合によってはモノに乗っかる演出です。
この演出は画面がかなりファンタジックな感じになるので、「OP・ED映像の世界は作中と異なる世界」というのがよく出ている演出なのではないかと。
⑩ 思い出写真
「Just Because!」より:©FOA/Just Because! 製作委員会
「ハナヤマタ」より:©浜弓場 双・芳文社/ハナヤマタ製作委員会
「冴えない彼女の育てかた♭」より:©2017 丸戸史明・深崎暮人・KADOKAWA ファンタジア文庫刊/冴えない♭な製作委員会
「メリーゴーランド演出」がファンタジックな演出だとすれば、逆にこの「思い出写真」演出はリアル寄りな演出と言えるのではないでしょうか。
写真とは便利なもので、作中より過去や作中で描き切れない行間をたったワンカットで補填できたりします。その上で、キャラの作中では見れないような顔、仕草、格好を抜き取って、そのキャラを好きな視聴者にサービスもできるというコスパのいい演出です。
また、この「思い出写真」演出は青春モノの作品でよく見かける気がします。物語における青春はなおさらキラキラとしていてかけがいのない瞬間として描かれがちです。その瞬間を切り取って保存しているというところにエモさを感じるのがこの演出の好きなところです。
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というわけで、遊び要素についてはだいたいこんな感じですが、ここからが本番。
次にこれらを組み合わせた傑作OP・EDを紹介していきましょう。
“遊び要素”を活かした傑作深夜アニメOP・ED映像5選
前項の遊び要素を踏まえた上で、ここではそれらを組み合わせた傑作OP・ED映像を五つ厳選してご紹介します。
『C³ -シーキューブ-』(2011)/ OP「Endless Story」
(C)水瀬葉月/アスキー・メディアワークス/C3製作委員会
まずはこれ。
お尻フリフリ(パンチラあり)や足でのタイミング合わせ、そして口ずさみ+ダンスの合わせ技が2回登場します。もちろん要素をたくさん使えばいいってもんじゃないんですが、一度は見てもらいたいです。
曲調が変わるタイミングでスイッチが入ったように動きが激しくなるところが特に好きです。疾走感のある曲も相まっての選出になります。
『変態王子と笑わない猫。』(2013)/ ED「Baby Sweet Berry Love」
(C)2013 さがら総・メディアファクトリー/「変猫。」製作委員会
アイドルアニメみたいに見えますが、ラブコメです。
超ハイカロリーダンスシーンが3箇所。口ずさみ箇所や歌ってるところもしっかりあります。背景も相まって、「可愛い」という文化を濃縮したような映像です。踊り自体もとても可愛いですが、そんなに難しい動きというわけではなく思わず真似して踊りたくなってしまうような良さがあります。
あとちょっと本編に関することになってしまいますが、全く同じ女の子が出てて片方は可愛い衣装で楽しそうに踊っていて、もう片方は無表情。これも本編の設定を踏まえた演出になっています。見れば分かります。
『ゴールデンタイム』(2013)/ ED「Sweet&Sweet CHERRY」
©竹宮ゆゆこ/アスキー・メディアワークス/おまけん
歌うところが2箇所。一言口ずさみも確認。前の2つに比べれば派手さはありませんが、本作ヒロイン・加賀香子のいろんな表情や小物などのディテールが、まるで香子の部屋をのぞき見しているかのようにも感じさせます。
香子は本編序盤はもう少しツンツンしていた印象ですが、このEDを見ることで「この子は今後こんな表情をするようになるのか?」といった具合に視聴意欲にも繋がるのも、素晴らしいところの一つです。良く言えばサービス、悪く言えばネタバレってところでしょうかね。(笑)
『三者三葉』(2016)/ OP「クローバー♣かくめーしょん」
(c)荒井チェリー・芳文社/三者三葉製作委員会
やはりこの企画で動画工房の作品は外せないでしょう。みでしOP、わたてんOP、刀剣乱舞‐花丸‐のOPなども素晴らしいですし、なんなら動画工房の作品だけでも5つ選べたまでありますが、一つに絞るならこの『三者三葉』のOPではないでしょうか。
使われている遊び要素は掛け合い、歌う、タイミング、踊る、思い出写真といった感じですが、このOPの最大の良さは「視覚変化のダイナミズム」といったところでしょうか。
少し映像論的な話になりますが、「視覚変化のダイナ三ズム」はカットで強弱や緩急を発生させることです。例えば0:11から双葉がご飯をむしゃむしゃしているカットと0:14からの照と葉子が歌っているカット。前者は普通ですが、後者はアップに加えてカメラが左右に大きく振られていて絵的にも「うるさい」カットになっています。
1:19からはもっと顕著で、寄り気味で走ってくる三人を映すカットと引き気味に踊っている三人を映すカットが交互に来ます。このような緩急が曲とともにリズムを生み出し、より「気持ちよく」感じる映像になっているのではないでしょうか。
劇場版『魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』(2013)/ OP「カラフル」
©Magica Quartet/Aniplex・Madoka Movie Project Rebellion
劇場版からの選出です。そもそも劇場版で深夜アニメのOPのような部分が導入されている作品ってパッと思いつく限りであとは『君の名は。』くらいしかないですが、劇場版の作品でもあることはあります。
冒頭の口ずさみやサビのダンスシーンの遊び要素はもちろん、4人の楽しそうな姿は作中で見られないのがエモいですよね。これもある意味サービスといえるかもしれません。
サビの演出も奥深いです。ほむらを中心にメリーゴーランドが回り、ほむら以外の4人が踊っているんですが、じゃあこのメリーゴーランドを回しているのは誰なのか、4人は誰に踊らされているのか…みたいなことを考えるとゾっとしませんか?
総括
というわけで、10の“遊び要素”と、それらを組み合わせたOP・EDを5作品からご紹介させていただきました。感覚的なことを言語化するのは難しいですね(笑)
遊び要素は紹介したもの以外にも、探せばそれこそ無限に見つかると思うので、コメントだったりハッシュタグでつぶやいてもらって、データベースっぽく出来たらもっと面白いかなとは思います。
アニメのOP・ED映像のいいところはアニメ本編を知らなかったり見たことがなくても、気軽に楽しめるところではないでしょうか。またOP・ED映像は本編を90秒程度に凝縮したものともいえるので、新しいアニメを探すときの導入にもなります。「この曲好きだから見てみようかな」「このキャラ可愛い!」みたいなきっかけにもなり得るわけです。
皆様にもOP・ED映像をきっかけにした素敵な作品との出会いがありますように。
執筆者 : ツバメ (@cantdrawsw)
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